親友
「報告があります!恋人ができたの!」
放課後の河川敷。
まるで写真のような光景だった。
香奈の笑顔が夕暮れに光る。
長い髪が夕日を透かし、滑らかに光って揺れていた。
「美智には一番に伝えようと思ってね!へへっ」
「…はいはい、おめでとう」
「うわっ、相変わらず淡泊ね…。でもありがと」
「そんなら明日からその恋人さんと、仲良く帰りなさいよ」
「もしかして、私に恋人ができて嫉妬してるの?美智ってば、私のこと大好きなんだから~」
「親友のこれからの恋路に幸あらんことを」
手を組んで祈ってみせる。
「ちょっとは悔しがるかと思ったのにな」
「なんで私が悔しがらないといけないの」
親友の幸せなんだから喜んであげるべきでしょ?
「明日からは三人で帰るってのはどう?」
「私はあんたたちの後ろで、隣に恋人がいない虚しさに泣きながら帰るのね」
「嘘だって、冗談!」
「じゃあ、私こっちだから」
T字路の分かれ道、私は左側を指さす。いつもは二人で右に曲がる道だ。
「どっか行くの?私も一緒に…」
「これから親とご飯。学校終わったら合流しろって言われてるの」
「そっか…。じゃ、またね!」
「うん。ばいばい」
左を向いて、あてもなく歩き出す。
明日からは独りぼっちか。
雲一つない空は、紺と橙を曖昧に混ぜた淡い水彩画のようで、今日という日が終わりに近づいていることを告げる。
夕日が落ちて、夜になって、また朝が来る。
でも、香奈と歩いた今日は二度と戻ってこない。
太陽が西から東に動き出したらいいのに。
香奈はいつも私の後をついてくる子だった。
いつでも、どこに行く時でも私たちは一緒だった。
またねって言っても私がいなくなるまで、泣きながらずっと手を振っていた。
永遠の別れかと思うほど大げさな香奈に、私は毎回笑って言う。
「ずっと一緒にいてあげるから」
「あれ、本気だったのにな」
立ち止まって振り返る。
香奈がぱたぱたと向こう側へ走って消えていく。
その背中に手を振ってみた。
さようなら、香奈。
明日からは、本当に親友だ。